【司法試験】会社法事例演習教材(第3版)Ⅰ-1 株式の譲渡

会社法事例演習教材Ⅰ-1 株式の譲渡】

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 こんにちは、今回は会社法事例演習教材から...この問題集をやっておけば司法試験に出題されるであろう論点は一通りさらえる(らしい)ということでとりあえずこれをやっていこうと思います。他の事例演習教材とは異なり、一問一答的問題や一行問題、学説問題も含まれていますので問題を全部やるのではなく、選びつつやっていこうと思います。一応、気になる部分は最後の【ひとこと】の部分で触れようかなと考えています。
ご意見、ご質問等ございましたら、ブログのコメント機能ないしTwitterのDMにお願いしますm(__)m
 では、以下答案です。

【答案】
(設例1-1 名義書換未了株主の場合の譲渡株主の権利行使)
(1)P社株式に譲渡制限の定めがない場合
1.P社はAが株主であることを否定できるか(Q3)
 株主名簿の名義書換未了株主を会社の側から株主として取り扱うことができるか。株主名簿の名義書換がなければ株主譲受人は自らの株主としての地位を会社に対して対抗することができない(会社法130条1項)。この制度の趣旨は多数変動し続ける株主について集団的画一的に処理をするため会社に便宜を図る規定というべきである。加えて、名義書換がなかったとしても株式の譲渡は有効であると解される。  
 上記の制度趣旨に従えば、会社は自己の危険において名義書換未了株主を株主として取り扱うことができると解される。したがって、P社はBを株主として取り扱うことが可能である(Q3⇒)。
 そうすると、P社はAが株主であることを否定できることになるが、Aが株主名簿に記載されている以上、Aが株主であることの推定が働くと考えられるので、Aが実質的に無権利であることはP社が立証責任を負うと解される。
 そこでAは株主総会決議取消の訴え(会社法831条1項柱書)の原告適格を失うことになるから訴えは却下される(Q4)。

2.仮にAからBへの株式譲渡が基準日後に行われていた場合(Q5)  
 もっとも、株式譲渡が基準日後に行われている場合には、Aの基準日株主としての権利を害することになる(会社法124条4項但書)。たとえ、Bに株主としての権利行使を認めなかったとしても、基準日後の株式取得によりその分安く株式を取得しているはずであるからBに権利行使を認めなかったとしても不合理ではない。  
 したがって、P社はBに株主としての権利行使を認めることはできない(Q5⇒)。

3.P社は名義書換未了を理由にAの権利行使を拒み、名義書換未了を理由にBの権利行使を拒むことはできるか。
 確かに、P社はどちらの理由によっても株主の権利行使を拒むことができるようにも思える。しかし、株式の権利行使の空白を認めることは趣旨に反すると考えられるため、P社としてはどちらかの株主の権利行使を認めなければならない(Q6)。
 そうだとしても、P社は、AまたはBの都合の良いほうを選択して議決権の行使を認めることはできるか。
 しかし、P社が名義書換未了株主の権利行使を認めることができるとしても、上記趣旨は会社の恣意的裁量まで認めるものではなく、P社は都合のいいほうを株主として権利行使させることはできない(Q7)。

(2)P社株式に譲渡制限の定めがある場合
1.P社の側からBを株主として取り扱うことはできるか。
 P社は、公開会社でない会社であるところ、譲渡制限株式の譲渡には会社の承認が必要となる。ここで、会社の譲渡承認がない譲渡制限株式の譲渡の効力が問題となるが、株式譲渡制限の趣旨は会社にとって好ましくないものが参入してくることを防止し、経営の安定を図るためにある。そうすると、譲渡当事者の間では当該譲渡の効力は有効であるが、会社との関係では当該譲渡は無効であると解すべきであり、会社はBを株主として取り扱う余地がない(Q9)。
 したがって、P社は株式の譲渡人であるAを株主として取り扱う義務があるというべきである(Q10)。

(設例1-2 従業員持株制度における売渡強制条項の効力)
1.Bとしては、①従業員持株制度が自己株式取得規制(会社法156条1項本文)に反すること、または、②株式を5万円でP社が取得することにつき会社法127条違反ないし民法90条違反があるとして、(c)の合意が無効であり、株式を引き渡す義務がないと主張することが考えられる(Q1)。

2.①について
 自己株式の取得は原則として禁止されている(会社法155条1項本文)が、特定の株主との合意により自己株式の取得をする場合には株主総会特別決議をすることにより例外的に可能である(会社法156条1項)。
 本件では、P社において株主総会特別決議が行われたという事実はなく、従業員持株制度のひとつである自己株式取得条項は無効である(Q2⇒1)。
 そうだとしても、上記違法な自己株式取得を譲渡人たるBの側から主張することはできるか。
 この点、自己株式取得が規制されている趣旨は、会社財産の保護を目的とするものであり、譲渡人としても合意通りの対価を受けることができるのであるから会社側から自己株式取得の無効を主張しない限り、譲渡人からの無効主張を認めるべきではないと解される。
 したがって、Bの側から本件自己株式取得の無効を主張することはできない(Q2⇒2)。

3.②について
 株式の譲渡については原則として自由であるが(会社法127条)、本件のように会社が株式の譲受人となる契約は会社法127条及び公序良俗(民法90条)に反しないか。
 この点、会社が当事者となる契約であっても、契約自由原則が妥当するため、このような合意も有効であると解される。そうだとしても株主の投下資本の回収を不当に妨げるような場合には、公序良俗に反し無効である(Q3⇒1)。
 本件では、売渡強制条項としてP社とBの間で事前の合意があるものの、1株当たりの純資産額は100万円をこえるまでに成長しており、その対価が合意に基づき5万円というのは、価格決定の方法に合理性がないと考えられるため無効であると考えられる。
 したがって、本件売渡強制条項は無効である。

4.したがって、Bは②に基づき株券の引渡を拒むことができる(Q3)

(設例1-3 失念株)
1.剰余金配当について
 Bとしては、Aに対し、不当利得返還請求(民法703条)をすることが考えられる。株主名簿における名義書換をしなければ会社に対抗することはできない(会社法130条1項)が、譲渡契約当事者間では有効であると解される。そうすると、剰余金配当や株式分割等の名簿上の株主が無出捐で取得した剰余金や株式は実質的な株主に帰属することになるため、名簿上の株主が得た利益は実質的な株主に由来する侵害利得であり、不当利得返還請求が可能であると考えられる(Q2)。

2.株主割当てによる新株発行
 Bは、Aに対し発行された新株の引渡を求めることができるか。
 上記のように譲渡契約当事者間では株式譲渡契約は有効であると解されるから株式の割り当てを受ける権利も株式の移転に随伴して移転するものであり割り当てを受ける権利も譲受人に移転する。もっとも、新株の引き受けは会社への払込みを通じて新たに取得されるものであるから新株自体は譲渡人に帰属する。
 また、名簿上の株主の出捐を伴う新株発行のような場合には、株式価格の変動にともなって名簿上の株主と失念株主との間で株式の押し付け合いが生じることが実質的に懸念される。
 したがって、失念株主は名簿上の株主に対し、新株の引渡を請求することができないと解するべきである(Q3)。

【ひとこと】
 探り探りと...いった感じで、最初にも書いたんですけど、学説の問題が結構含まれているので答案がすごく書きにくい...完全に司法試験からするとオーバースペック感が否めませんが( `ー´)ノ
 ここからは答案では書いていない設問について...
 【設例1】については、Q7⇒の部分は、判例が名義書換未了株主を会社から株主として取り扱うことができることは前提に、恣意的裁量を認める趣旨ではないから株主数の多い会社ではどちらかに一律に議決権行使をさせることは困難である一方、株主数が少なければ可能になる余地があるということでしょう。
 【設例2】については、従業員持株制度の売渡強制条項が公序良俗違反として無効となるラインですが、裁判例の多数は、従業員の事前の了解、制度維持の必要性、比較的高率の剰余金配当が従業員の福祉に寄与していることから売買価格に違法性がないとするようです。これに対しては、株式の配当性向が100%に近くなる場合でなければ価格決定の違法性があるとする見解もあり、答案ではこちらよりました。
 【設例3】については、名簿上の株主が出捐を伴い株式を保持している場合にも答案中でも述べた形式的理由と実質的理由(下線部分)を根拠に失念株主には一切権利がないと解し請求を認めないとするのが判例の立場だと思います。そのうえで、権利含みの価格で株式譲渡がなされている以上、失念株主も名簿上の株主に株式の割当てを受ける権利相当額の返還を認める見解を問うのがQ4以下です。
 不当利得の成立を認めるとして、Bに株式を譲渡している以上Aは善意の受益者(民法703条)でないように思えますが、通常故意に名義替えをしないことが多いため、Aを善意扱いするのが多数説のようです(Q4⇒1)。返還すべき利得額については、払込価格と新株発行直後の市場価格の差額をプレミアムと考えて請求できると解するべきです(Q4⇒2)。