【司法試験】答案 事例演習刑事訴訟法(第2版)1

【1 任意捜査と強制捜査

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 前回、刑法をやったので今日は民法をやろうかなと思っていたのですが、私用が立て込んでいまして、仕方なく負担の軽い刑事訴訟法の答案を書くことにしました。答案を書くのに選んだのは受験生の中では有名であろういわゆる古江本の設例を書くことにしました。どちらかというと読み物チックな本ですので、ネット上にもあまり答案が落ちているのを見かけたことがなくあえて答案化してみようかなと。
 問題の概要としましては司法警察員の写真撮影捜査の適法性が問題となっています。今年の司法試験では例年の1問目に頻出だったこの分野の問題が出題されず、少しひねった問題となっていたんですが、来年また元に戻る可能性も高く是非チェックしておきたい重要分野の1つですね。
 写真撮影捜査といえば僕の中のイメージでは、よくテレビの2時間特番でやっている「警察24時」とか刑事ドラマで向かいのビルからアンパンを食べながら張り込みを続けるみたいなイメージなんですけど実際のところどういう感じなんでしょうね笑。昨今、話題になったGPS捜査を含め一度捜査の現場というものを見学してみたいなぁ。

【答案】
第1.
1.司法警察員K(以下、K)がXの容貌を写真撮影した捜査についてこのような捜査方法(以下捜査Ⅰとする)は適法か。
2.
(1)司法警察職員は犯罪があると思料する場合には捜査を開始することができる(刑事訴訟法189条2項、以下刑訴法とする)が、そのなかでも強制捜査は公権力と個人の自由が衝突する際たる場面であり、その行使にあたっては、立法府強制捜査を統制する強制捜査法定主義(刑訴法197条1項但書)と司法府が強制捜査を統制する令状主義(憲法33条、35条)の二重のコントロールが及ぼされていることが必要となる。
(2)
ア.では、捜査Ⅰは強制捜査に当たらないか。
イ.強制捜査とは、単に有形力の行使を意味するものではなく、①被疑者の合理的に推認される明示又は黙示の意思に反して、②身体、住居、財産等憲法上保障される重要かつ価値の高い法益を制約すること、を意味すると解すべきである。
ウ.捜査Ⅰにおいては、Kは自宅の居室でくつろいでいるXの容貌を、裁判官の令状の発付を受けることなく、Xの居住するアパート前の路上から、望遠レンズおよび赤外線フィルムを用いて撮影している。このような捜査手法は、Xの憲法13条に由来する「人の容貌姿態をみだりに撮影されない自由」を制約しているのはもちろん、加えて、望遠レンズや赤外線フィルムを用いてプライバシー強保護空間であるといえる人の住居の中まで覗き見るのはXの憲法35条が保障する私的領域への制約があるといわざるを得ない(②充足)。また、通常、自宅の居室でくつろいでいるところを撮影されることは被疑者の合理的意思に反するのが通常といえる(①充足)。
 このような捜査手法は、人の五官を用いて対象物の状態を観察する検証の性質を有するものであり、にもかかわらず令状の発付を得ていない捜査Ⅰは令状主義に反し、違法であると解すべきである。
第2.
1.Kが、昼間、路上を歩行中のXをビデオで隠し撮り撮影した捜査についてこのような捜査方法(以下捜査Ⅱとする)は適法か。
2.
(1)まず、捜査Ⅱは強制捜査にあたらないか。
(2)強制捜査の定義は上記第1.2.(2)イで述べた通りであるから、これを捜査Ⅱについてみると、昼間の路上での歩行中のXをビデオで隠し撮り撮影する捜査は、確かに、上記に述べた「人の容貌姿態をみだりに撮影されない自由」は制約しているといえるが、昼間の路上という場所は通常、人から容貌姿態を観察されることも受忍すべき場所であることを考えると憲法35条の保障する法益まで制約しているとはいいがたい(②不充足)。したがって、捜査Ⅱは強制捜査にはあたらない。
3.
(1)では、捜査Ⅱが強制捜査にあたらないとしても、任意捜査(刑訴法197条1項本文)として強要すべき限界を超えて違法ではないか。
(2)たしかに、任意捜査であるとしても情況の如何をとはず常に許容されるものと解するのは相当ではなく、必要性、緊急性なども考慮した上、具体的状況のもとで相当と認められる限度で許容されるものと解すべきである。
 ここでいう相当と認められる限度とは、いわゆる比例原則を意味し、本件捜査により生じた法益侵害の内容、程度と本件捜査を用いる(広義の)必要性の合理的権衡状態を意味する。(広義の)必要性とは、捜査手段を用いる(狭義の)必要性、犯罪嫌疑の濃淡、回顧的にみて当該捜査手法をとることが緊急でやむを得なかったか、犯罪の重大性、捜査手段の目的、を総合的に考慮すべきである。
(3)そこで捜査Ⅱについてみるに、Xは昼間の路上というプライバシーが強く保護される場所ではないものの、ビデオという写真と比較して継続的に容貌姿態を観察されるという点でより大きな制約を受けている。しかし、一方で本件は強盗殺人事件(刑法240条)という重大事案であり、Wが犯人の顔を鮮明に覚えているということから顔を撮影する必要性が高かったこと、Yの供述やXの前科から犯罪の嫌疑が相当濃かったこと、などから捜査Ⅱは相当な方法であったと考えられる。
 したがって捜査Ⅱは適法である。
以上

【ひとこと】

 仲間内でよく議論になっていたのは、導入部分で強制捜査が二重のコントロールに服するという部分(第1.1.(1)のところです)が必要なのかという点。よく再現答案を見るとみんな判で押したように書いているのですが、なんかかいててそこの部分だけ宙ぶらりんになるような感覚で気持ち悪いんですよね。ご意見お待ちしています。
 あと個人的には、この形式の問題は超オーソドックスなのであまり点に差がつかない印象で規範の部分はみんなかけているのは当たり前なのであてはめ部分を充実させる必要があるかなと思います(この設例は事実があまり多くないんですが...司法試験だとかなり拾える事実が多い)。加えて、問題となっている捜査が強制捜査にあたるから違法とする結論を採る場合でも、それが強制捜査法定主義に反するのか、令状主義に反するのか、との区別(第1.1.(2)ウの第2段落のところです)は意識的に書くほうが答案の差別化ができるのかなぁとも思っています。

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