【司法試験】答案 刑法事例演習教材(第2版)1

【1 ボンネットの上の酔っ払い】

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 ということで、法律答案の第1弾は「刑法事例演習教材(第2版)」の第1問からです。この教材、司法試験のタネ本として有名ですけど、問題ごとにネーミングがついてて、編集された教授方のおちゃめな一面が見え隠れしていますよね笑
 この問題はまぁ酔っ払いを注意したらケンカに...という感じの話ですけどおんなじ感じで普段夜道を歩いていると酔っぱらって道に転がっている人をたびたび見かけたりします笑そういう僕も大学生の頃は
 皆さん、あまり相手を刺激しない程度に注意しましょうね笑、と余談はこのへんにして以下答案です。

【答案】
第1.甲の罪責
1.甲がAの手を払いのけて、Aの顔面を手拳で軽く1回殴打した行為につき、以下のよ  うに甲のAに対する暴行罪(刑法208条)が成立する。
(1)「暴行」とは、人の身体に対する有形力の行使を意味するところ、甲がAの顔面を手拳で殴打することはこれにあたる。
(2)甲の行為につき、当然に暴行の故意は認められる。
(3)そうだとしても、本件では、Aが甲の胸ぐらをつかもうとしてきており、甲の行為は正当防衛(刑法36条1項)にあたり違法性が阻却されないか。
ア.正当防衛が成立するためには、①侵害の急迫性、②①の侵害が不正なもので③自己又は他人の権利を防衛するために、④やむを得ずした行為、でなければならない。本件におけるAの行為は急迫不正の侵害に当たるといえるし、甲の行為は自らの身体法益を防衛するために行われたものである(①,②,③充足)。

イ.④につき、「やむを得ずした行為」とは、防衛行為が侵害に対する防衛手段として相当性を有するものであることを意味する。ここでいう相当性とは防衛手段から生ずる結果の相当性を意味するのではなく、行為としての相当性を判断すべきである。そこで相当性の判断にあたっては具体的状況下で、防衛行為者がとり得る防衛手段の中で可能な限り侵害性の低い防衛手段をとったかどうかにより判断すべきである。
 本件では、甲の防衛手段としては、Aの手を振り払って、車を発進させることも可能であったのだから相当性を充たすとはいえない(④不充足)。
ウ.したがって、甲の行為に正当防衛は成立せず、過剰防衛(刑法36条2項)が成立するにとどまる。
(4)以上の通り、甲のAに対する暴行罪が成立する(ⅰとする)。

2.甲が車を発進させ、Bの体から約1メートル離れた地点に車を進行させた行為につき、以下のように傷害罪(刑法208条)が成立する。
(1)暴行の定義は1.(1)で述べた通りであり、甲がBの身体から約1メートル離れた地点に車を進行させる行為であっても、暴行にあたる。
(2)次に、甲にBに対する暴行の故意があったか問題となるが、故意とは犯罪の客観的構成要件該当事実に対する認識をいうが、その認識の程度としては構成要件該当事実に対する認容で足りると解すべきである。
  本件では、Bに対する傷害の故意があるとまではいいがたいものの、Bの身体の近くに車を発進させるという認識はあるのであって暴行の故意は少なくとも認められる。
(3)次に、本件では、甲の車を避けようとしたBが全治1週間の打撲傷を負っているが、当該傷害結果が甲の行為に帰属するといえるか。
 行為に結果が帰属するというためには、行為と結果の間に条件関係を前提として行為の危険性が結果に現実化したといえることが必要となる。
 本件では、甲の発車行為がなければBは傷害結果を負うこともなかったし、加えて、当該行為がBの回避行動を誘発した上、その回避行動がBの傷害結果を生じしめている以上、当該行為の危険性が現実化した結果がBの傷害結果であると評価することができる。
  したがって、Bの傷害結果は甲の発車行為に帰属する。
(4)なお、傷害罪は暴行罪の結果的加重犯であるところ、責任主義の観点から傷害結果に対する過失前提として、基本犯足る暴行罪の故意がありさえすれば傷害罪を構成すると解すべきである。
  本件では、甲が車を発車させれば、Bの体に接触はしないまでもなんらかの回避行動により転倒し、打撲傷を負うことは予見することができたのであり、甲には当該結果を回避する義務があった点で過失が認められる。
(5)次に、甲の発車行為につき、Bに対する正当防衛として違法性は阻却されないか。この点、BはAとともに現れただけで、いまだ甲に対する何らの急迫不正の侵害を行っていないのであって、正当防衛を認めることはできないと考えられる。
(6)以上の通り、甲のBに対する傷害罪が成立する(ⅱとする)。

3.甲が路上において急ブレーキをかけて同車のボンネット上からAを振り落として転落させた行為につき、以下のように殺人未遂罪(刑法199条、43条)が成立する。
(1)まず、時速70キロで疾走する車から急ブレーキをかけてボンネットから人を振り落とそうとする行為は、人に死亡結果をもたらす危険を内包する行為と評価することができるため、殺人罪の実行行為にあたる。
(2)次に、甲に殺意があるかどうか問題となるが、故意については、2.(2)で述べた通りであり、客観的構成要件結果に対する認容を必要とする。そこで本件についてみると甲はAをボンネットから振り落として逃げようと考えており、時速70キロで疾走しつつ、急ブレーキを何度もかけたり蛇行運転するなどして約2.5キロメートルを走行している等、通常人を死亡せしめるような行為をしている間接事実を併せ考えると、Aの死亡結果に対し認容があったと評価せざるをえない。
(3)
ア.そうだとしても、甲の行為に正当防衛が成立し違法性は阻却されないか。
イ.この点、正当防衛の根拠が法的保護を与えるにふさわしい個人の存在にあり、Aの急迫不正の侵害行為は甲が自招した侵害であることを考えると、①侵害行為が防衛行為者が招いたものであって、②①の行為が侵害行為と密接に関連している場合に、③当該侵害が防衛行為者の行為の侵害の程度を大きく超える者ではないときにはもはや法が保護を与える正当防衛状況にないといえるため正当防衛は成立しないと解すべきである。
ウ.本件では、1.で述べたように甲の行為が暴行罪を構成し、それに起因してAが追跡行動をとっている以上、Aの急迫不正の侵害は甲が招いたと解されるし(①充足)、時間と場所にしても、平成25年深夜の数時間にかけて京都市内で起きた事象であって両事象は密接に関連しているといえる(②充足)。また、Aが棒切れをもって近づく行為は、当初の甲の殴打行為の侵害の程度を大きく超えるものとはいえない(③充足)。
 したがって、甲の行為につき正当防衛は成立しえない。
(4)なお、甲の行為により、Aは頭部外傷等の加療約2週間を要する傷害を負わ
 せたにとどまる(死亡結果の不発生)。 
(5)以上の通り、甲のAに対する殺人未遂罪が成立する(ⅲとする)。 

4.罪数
  1~3より、ⅰとⅱとⅲにつき併合罪(刑法45条)が成立する。なお、ⅱについては、過剰防衛により任意的減免が考えられる。
以上

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